処遇改善加算の取得を目指す上で、最も難解な要件が、この「キャリアパス要件」です。
「キャリアパス」とは、「事業所における各職位、職務に就任するために必要な業務経験とその順序、配置移動のルート」などのことをいいます。
つまり事業所で働く職員が、「その事業所においてどのような職位や職務があるのか」、また「どんなことをすればその職位や職務に就けるのか」ということです。
そのような制度が明確に定まっていれば、職員も具体的な目標を持って働くことができますよね。
キャリアパス要件はどれを、(あるいはすべて)満たしているかどうかで以下のように、処遇改善加算のⅠ~Ⅲの区分に分けられます。
□処遇改善加算Ⅰの要件
キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲすべてを満たす。
□処遇改善加算Ⅱの要件
キャリパス要件Ⅰ、Ⅱを満たす。
□処遇改善加算Ⅲの要件
キャリアパス要件Ⅰ又はⅡを満たす。
ここで、こう疑問に思った方もいるでしょう。
キャリアパス要件って何だろう?
各キャリアパス要件について以下にまとめましたので、確認していきましょう。
□キャリアパス要件Ⅰ
要件内容は福祉・顔後職員の任用の際における職位、職責または職務内容等に応じた任用等の要件及び賃金体系を定めていることです。
つまり、管理者、サービス管理責任者、主任職業指導員等、事業所の職位ごとの担当する職務内容(職責)、その職務を行うにあたり、必要となる能力(職能)などを定めて、かつそれぞれの職位ごとの賃金体系(管理者〇万円、サービス管理責任者〇円等)を定める必要があるということです。
とはいっても、具体的にどのように定めればいいのかわからないという方もいらっしゃいますと思います。
以下に具体的な作成例を記載しましたので、ご参照くださいませ。
〇職位及び職務内容等の例(管理者)
職種 |
担当職務 |
必要となる職能 |
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管理者 |
事業計画策定 |
事業所全体の事業計画の立案 他施設等の外部環境・競合の調査 事業計画の遂行及び各職員への周知・役割分担 事業計画の進捗管理及び状況に応じて計画の見直し及び改善 |
①事業所の業務及び運営を総合的に統括管理する広い視野と能力がある。 ②事業所の従業員を統括し、その模範となり、モチベーションを引き出すことができる。 ③従業員の人事考課を公明正大かつ的確に行うことができる。 ④事業所を代表して責任を持って外部との一次的な交渉及び営業活動をするコミュニケーション能力がある。 ⑤事業所内外に発生が予想される引く雑かつ困難な諸問題を有効に解決し、又は未然に発見し、予防する能力がある。 ⑥就労継続支援事業の人員基準、設備基準、運営基準及び関係通達に精通する深い知識がある。 |
従業員管理 |
従業員のシフト作成、勤怠管理 従業員のやる気を引き出すためのモチベーション管理 従業員からの相談への対応及びケア 従業員の第一次人事考課の実施 |
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利用者対応 |
利用者又はその家族からの重大な苦情・相談への適切な対応 |
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リスク管理 |
緊急事態発生時の対応策の検討・遂行 |
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法令遵守 |
各法定書類の整備状況の確認及び管理 利用者への虐待防止のための措置の検討及びその周知徹底 |
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営業活動 |
事業所の代表としての、外部との一次的な折衝業務利用希望者の確保のための営業活動 |
〇職位ごとの賃金体系の例
職種 |
給与種別 |
給与額 |
備考 |
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常勤 |
管理者 |
基本給 |
¥210,000 |
勤続年数により昇給・昇進 (ただし昇進の場合は要面接) |
施設長手当 |
¥50,000 |
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サービス管理責任者 |
基本給 |
¥190,000 |
勤続年数により昇給・昇進 (ただし昇進の場合は要面接) |
|
サビ管手当 (1年目) |
¥10,000 |
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サビ管手当 (2年目) |
¥20,000 |
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サビ管手当 (3年目) |
¥30,000 |
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職業指導員 |
基本給 |
¥190,000 |
勤続年数により昇給・昇進 (ただし昇進の場合は要面接) |
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生活支援員 |
基本給 |
¥190,000 |
勤続年数により昇給・昇進 (ただし昇進の場合は要面接) |
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非常勤 |
職業指導員 |
時給 |
¥900 |
勤続年数により昇給・昇進 (ただし昇進の場合は要面接) |
生活指導員 |
時給 |
¥900 |
勤続年数により昇給・昇進 (ただし昇進の場合は要面接) |
□キャリアパス要件Ⅱ
要件内容は福祉・介護職員の資質向上のための目標及び計画を策定し、当該計画に係る研修の実施または研修の機会を確保することです。
「目標及び計画」とは、研修の機会の提供の為の計画(年間研修計画)や、福祉介護職員の資質向上のための事業所として何らかの措置(例えば「事業所全体の資格(介護福祉、社会福祉士等)の取得率向上」を目標として掲げた場合、研修などの受講の為のシフトの調整や国家試験の受験料・受講料の補助といったもの)のことです。
福祉・介護職員のキャリアパスのため、事業所が積極的にこうした研修あるいは資質向上のための目標・計画をしっかり定めて実施することが要件になっています。
□キャリアパス要件Ⅲ
要件内容は経験若しくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けることです。
キャリアパス要件Ⅰにおいて福祉・介護職員の職位や職責と、それに応じた賃金体系を定めることとされてきましたが、この要件のみでは「昇進等の道筋」が明確になるだけで、職員がどうすれば昇給するのか、という点において不透明でした。
そこで加わったのが、このキャリアパス要件Ⅲの「昇給要件」です。
昇給の為のキャリアパス要件は大きく以下の3つに分かれており、そのうちの一部又は全部を満たせばキャリアパス要件Ⅲを満たすことになります。
①経験による昇給 | 経験によって昇給(例えば勤続年数等) |
②資格による昇給 | 事業所で定める一定の資格(例えば介護福祉士、社会福祉士等)を取得することによって昇給する仕組み |
③評価による昇給 | 人事考課をさくせいし、それに基づいた評価(例えばA評価以上で昇給等)によって昇給を行う仕組み |
以上がキャリアパス要件に関する解説になります。
要件内容は複雑ですが、理解ができれば事業所に対して大きなプラスになることでしょう。
処遇改善加算取得に向けて動き出してみませんか?